日本音楽集団
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夏期講習会 > 2007年講習内容 > 2007年受講者レポート

音楽が生まれる瞬間(とき) 〜2007年度・日本音楽集団夏期合奏講習会に参加して〜

 昨年に続き、ことしも8月10日から12日まで、日本音楽集団の夏期合奏講習会が東京・千代田区の大日本家庭音楽会神田スタジオで開かれた。「日本音楽集団から生まれた名曲を、集団の指揮者・団員とともに合奏体験し、楽譜だけではわからない演奏のコツ、フレーズの歌い方など演奏技術のレベルアップを目指そう」というのが、参加募集のキャッチフレーズ。この講習会に福岡から二年連続で参加したのを機に、団員のみなさんのお勧めで感想や体験をまとめてみた。全国で活躍されているアマチュア合奏団のみなさんにとって、今後参加を検討される際の参考にでもなればと思う。
 ことしの課題曲は、初日の8月10日(金)がディベルティメントの第2・第3楽章(佐藤敏直作曲)、11日(土)は川崎絵都夫氏の新作、12日は組曲「人形風土記」(長澤勝俊作曲)。ディベルティメントは昨年、第1楽章の講習を行っており、これで全楽章が完結した。ただ、残念ながら、私は仕事の都合で初日は参加できなかったため、2、3日目についてのみ報告する。

◆「本日限定のピアノで…」
 新作が演奏会にかかるとき、楽譜が演奏者に手渡されるのは本番ぎりぎりというのが通り相場だが、ことしの講習会2日目の参加者のみなさんも、それに近い緊張感を味わったことだろう。
 予告された課題曲は、「新曲(題未定)」。公表されていたのは楽器編成だけ。果たしてどんな曲が届くのか…。みな、首を長くして待つことになった。
 講習は3日間とも、午前中、管楽器は市谷の正派邦楽会館、打楽器は笹塚の日本音楽集団練習場、絃方は神田の講習会場に分散してパート別の練習。午後から全参加者が神田に集まり、全体合奏練習というスケジュール。
2日目も午後から神田の会場で、作曲者の川崎絵都夫氏自身の指揮で全体練習が始まった。参加者たちは、あらかじめ集団が試奏したMD音源で曲の感じはつかんでいたものの、実際にどんな音が出てくるのか、手探り状態。まだ、曲のタイトルも付いていないため、みなそれぞれに描いたイメージをふくらませて演奏し始めた。
 楽器編成は、笛、尺八2、三味線、琵琶、箏2、十七絃、打楽器2。講習会なので、楽器によって参加人数が多すぎたり、少なかったりでバランスを欠くこともある。この日は琵琶が4人いて、全体から見るとやや突出した印象。さっそく川崎氏から「琵琶軍団」に、「この部分は本日限定のピアノで…」などときめ細かい指示が飛ぶ。

◆新作の名前は「夏夢三景」
そうこうしているうちに1楽章の練習が終盤を迎え、川崎氏から初めて「第1楽章は夏木立というタイトルです」というアナウンスがあった。これを聞いて、一同「ナットク」。この調子で、各楽章の練習が終わるたびに、「2楽章は『蛍ひとつ』」「3楽章は『夕映え』」とタイトルの説明があり、最後にようやく曲の題名「夏夢三景」が発表された。それまで、もやもやしていた視界が急に晴れたような気がして、仕上げの演奏が一気に盛り上がったことは言うまでもない。
 ジャンルの如何を問わず、音楽を志す者にとって、楽曲の初演を体験するということは無上の喜びであり、また名誉なことだろう。この日は講習会という形式ではあったが、わたくしたち受講者も新しい作品が生まれる瞬間に立ち会わせてもらうことができた。このような機会を与えていただいた日本音楽集団と作曲者の川崎絵都夫氏に、あらためてお礼を申し上げたい。
昨年の講習会で2日目の課題曲になった「邦楽器のためのコンポジション」(秋岸寛久氏作曲)も、まだ発表されて間もない新作で、二十絃から十三絃箏に編成替えしたお披露目バージョンによる講習だった。日ごろ、新作に接する機会がほとんどない地方の演奏者たちにとって、これは極めて貴重な体験だ。運営スタッフや作曲者の方の負担は大きいと思うが、是非、今後も新作を取り入れていただけたらとお願いする。

◆愛用楽譜は73年製オリジナル
 一方、講習の最終日は、いまや現代邦楽の「古典」ともなった長澤勝俊氏の組曲「人形風土記」。昨年の最終日の課題曲は「子どものための組曲」で、二年連続で長澤氏の代表曲がトリを務めることになった。
「人形―」は、私自身も大学の邦楽部時代に演奏した思い出深い曲で、入部のきっかけにもなった曲。学生時代に使った手書きオリジナル楽譜(原本は1973年製・青焼きコピー)を持って講習に臨んだ。尺八のパート練習では、シニアから学生まで五人の受講者が、音楽集団監修の縦譜や五線のパート譜、オリジナル楽譜など、思い思いの楽譜で参加。午後からは田村拓男代表の指揮で、全体練習が行われた。時代や世代を超えて愛され、各地の邦楽アンサンブルで演奏され続けてきた名曲だけに、管と絃の息もぴったり。尺八パートにとっては難物の「きじ馬」の掛け合い部分も、全員による合奏ながら無難に切り抜けた。

◆連日盛り上がる「夜の部」
 日本音楽集団事務局によると、この3日間で、全国各地から集まった参加者は延べ53名。見学のみの参加者も加えると67名にのぼった。
 この講習会の楽しみのひとつは、3日間とも練習終了後に団員によるミニコンサートがあること。講習曲や集団の十八番(おはこ)を目の前で聴くことができる。その点では、見学参加だけでも非常にお得な講習会といえよう。そして、ミニコンのあとは軽くビールで懇親会。もちろん、ここでお開きになるはずもなく、続きは近くの居酒屋に会場を移して「夜の部」の懇親会になだれ込む。各合奏団の演奏会のチラシ交換も行われ、邦楽談義が延々と続く。われわれのような地方からの参加組にとっては、またとない情報交換の場でもある。

◆来たれ「団塊」、邦楽ニューウエーブ世代も!
 2年続けてこの講習会に参加して、合奏の楽しさを体感するとともに、音楽を表現することの難しさをあらためて勉強させていただいた。パート練習で教わった大技、小技の数々や表現上の心構えは、日ごろの個人練習でもジワリと生きている。
 かつて、大学時代に学生邦楽に明け暮れた団塊世代やポスト団塊世代の方々も、そろそろ定年が近づき、「もう一度邦楽を!」と情熱をたぎらせておられるのではないだろうか。そんな方々にも「是非、この講習会に参加してみませんか」とお勧めしたい。かく言う私自身も、つい数年前、ひょんなことから邦楽の世界に再び足を踏み入れた身だからだ。そして、もちろん、邦楽ニューウエーブで育った若い世代の方々にも、この講習会で現代邦楽や和楽器アンサンブルの醍醐味を存分に味わっていただきたいと思う。

九州邦楽合奏団代表 豊田滋通(福岡県在住)


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