創立メンバーであり、指揮者・代表として日本音楽集団と共に長年歩んできた田村拓男名誉代表が創立時からを振り返る回顧録。
◆新しい様式を考える

 1964年当時、「現代邦楽」という言葉が使われ始めていた。多分NHKの番組制作の中で生まれた言葉だと察する。「現代日本の音楽」という番組があり、毎週と言って良いほど出演していた。
 邦楽器を使った新しい音楽なのだからまさに現代邦楽に違いない。現代邦楽の演奏スタイル?…。古典邦楽の世界では箏の合奏の際には通常床に箏を置いて演奏するが大合奏ともなると、はるか前方に位置する流派家元らの存在に最大限の敬意を表しながら空気を察して合わせるほかない。箏奏者は楽譜(縦譜)を見ながら糸を押さえる作業が伴う。音を合わせようとする意欲や能力は大変なものであり、それを当然のこととして受け止めている姿勢には敬意も表したい。
 現代邦楽では箏は立奏台を使い、三味線や尺八は椅子に座って演奏するようになってきた。五線譜による大合奏が増えて来たので邦楽合奏にも指揮者が登場し始めた。指揮者は、西洋オーケストラ発展とともに生まれたものだが、そのまま邦楽の合奏に持ち込まれることには邦楽人にとってはかなりの抵抗があるに違いない。
 元来、邦楽人は古来の音楽や演奏の形を守り伝えることに精魂を注いできた。しかし、先鋭的という言葉が妥当かどうかはわからないが、洋楽系・邦楽系を問わず作曲家が五線譜を活用した邦楽器の合奏曲を数多く発表するに及んで指揮者の存在も自然体になっていった。
(写真は、1972年第1次海外公演でのプラハ公演の様子)

◆現代邦楽に相応しい衣装は?
 「新しい」「日本」の「音楽」なのだから、ステージで演奏する際にはそれに相応しい衣装があってしかるべきだ。並び方、指揮者の立居振舞についてはどうする?
 1972年、初の海外公演(ベルギー、西ドイツ、チェコスロバキアなど17都市、19公演)があり、服装に関しては礼を尽くすつもりで男性は黒服だったが途中から紋付・袴に切り替えた。オリジナリティーもあり居心地が良く舞台が大きく見えるのだ。

◆指揮者は紋付・袴で椅子に
日本音楽集団ではアイディアが浮かんだ。昔、武将が陣頭指揮をする際に床几(しょうぎ)という椅子に座っていたことをヒントに、座奏で指揮をするに相応しい椅子を考案した。出来上がってきたものは、鼓を縦に置いた形のもの。これに座って指揮棒を持たずに、素手で合図をするというもの。この形は現代邦楽を進める上で結構「様(さま)」になるとの評判を得て国内はもとより海外公演でも定着している。

◆太鼓打ち兼音頭取り(指揮)役
 打楽器・太鼓を打つ指揮者の登場を活かした三木作品が登場した。下記はその代表的な2作品である。

『凸(とつ)〜三群の三曲と日本太鼓のための協奏曲』 初演第13回定期/1971年6月2日都市センタ―ホール
「凸(とつ)」では音頭取りは通常舞台正面に置かれた大太鼓(客席を背にして)を打ちながら三群を指揮する。(※三曲とは箏・三絃・尺八による古典の合奏スタイル) 編成
[1群]
尺八、箏、三味線(太棹)
[2群]
能管、二十絃箏、琵琶
[3群]
尺八(低音)、三味線(細棹)、十七絃箏
[太鼓] 太鼓(兼指揮)
(写真は、1972年第1次海外公演ベオグラード公演で「凸」演奏の様子)

『巨火(ほて)』初演第37回定期(かぐら1976)/1976年12月17日中央会館

 「巨火(ほて)」では、箏群ら16名を囲むように4隅に打楽器4人が陣取り、上手(かみて)手前の打楽器が音頭取り役。曲は「祀り」「スケルツァンド」と進んできて後半の「祭り」に突入。箏、三味線、尺八、琵琶、全打楽器群が一斉に秩父屋台囃子に参加。
 指揮者をはじめ、尺八群も<たすきかけ>をし一層華やかに彩る。舞台・客席とも否応なしに盛り上がる仕組みだ。
(写真は、「巨火」の舞台での演奏様式とスコアに記された配置指定)

◆長唄系メンバー参加の日本音楽集団
 日本音楽集団がこれまでの邦楽合奏団と違う点は、長唄系のメンバー参加があったことによる。箏・尺八・琵琶に三味線の杉浦弘和、鼓(つづみ)の尾崎太一、笛の望月太八らが加わったサウンドにより、これまでにない迫力や潤い、魅力を加えた合奏団の誕生となった。殊に四拍子が入ると俄然活き活きとし華やかさを増す。
地方公演・学校公演の際に楽器紹介のステージが設けられるのが定番だが、尺八楽・箏曲・琵琶楽に加え、歌舞伎音楽までもが紹介出来る幅広いものとなった。

◆「新八千代獅子」(日本音楽集団編曲)初演
 「新八千代獅子」という有名な古典曲の日本音楽集団編成版が、第34回定期演奏会(伝統音楽演奏会〜企画構成:野坂恵子)〜1976年6月青山タワーホールで初演された。これには箏・尺八・三味線のほかに胡弓・琵琶・四拍子(笛能管・小鼓・大鼓・締太鼓)が加わる日本音楽集団による新古典版の初演であり、長唄系のメンバー(望月太八・藤舎成敏・尾崎太一)参加により一層魅力的な「八千代獅子」の誕生となった。現代邦楽と古典を融合させ、「新たに継承」を形とした象徴的なもので国内外の公演で幕開けの曲として使われることが多い。